今年の秋はいつまでも暖かく紅葉もおくれ気をもみましたが、ようやく小屋から真近に見える明神岳五峰の、左側の肩に赤く色付いた木々を見ることができて、ほっとしました。
ほんの一にぎりほどの地味な紅葉ですが、抜けるような青空をバックにしたこの景色を、私達は毎年楽しみにしています。
その夜、外に出てふと見上げると、玲瓏(れいろう)たる満月がだいぶ透いてきた木々の間にありました。
秋の名月の周期遅れの満月で、後の月と言われるものです。名月の華やかな雰囲気はすでになく、凛として山中の空を渡るこの月のためにこそ玲瓏という言葉はあるのかもしれないと、寒さも忘れてしばし立ちつくしました。
この月が新月になる頃、上高地まで紅葉が下りてくるはずです。
上條久枝
